お料理が好きな方なら、観たら本当にたまらない映画、『バベットの晩餐会』。
19世紀のデンマークの寒村に、つつましく暮らす姉妹のもとに、バベットというフランス人女性が住み込みで働き始め、十数年後、バベットは高額の宝くじが当たって、雇い主の姉妹に、今までのお礼に晩餐会を開きたいと申し出る、というストーリーです。
私が最初にこの映画を観たのは20代でした。バベットの作り出すお料理の数々と村人たちのやりとり、バベットが実はパリの有名レストランの女性シェフで、宝くじで当たった全部のお金を使って、みんなにご馳走をする姿に、なんてホスピタリティあふれる人なんだろう、そう思ったのを覚えています。
30代で東新宿で小さなパティスリーを始めた頃、またこの映画をたまたま観ました。つつましさを美徳とする寒村の村人たちが、見たことのない食材に、最初はおびえ戸惑いながら、料理を食べすすめるうちに、頑なな心がほぐれ、どんどん幸せな気持ちになっていく。高級食材をてきぱきと、ためらいもなくさばいていくバベットの姿に、カッコイイ!と思って、うっとりと映画を観終わったのを覚えています。
そしてついこの前、テレビをつけたら、たまたまこの映画をやっていたんです。途中からですが、また最後まで観てしまいました。
3回目に観た『バベットの晩餐会』は、最初にサーブされた食前酒が、シェリーだったんだとか、あ、キャビアしかわかってなかったけど、キャビアの下はブリニーだ、うずらが入ったパイの形はブーシェだ、とか、出てくる料理はどれも見たことも食べたことのない、夢のような料理なのですが、出されていたクイズの答えが、ちょっとだけわかったような、そんな気分になりました。
そして、バベットが宝くじでもらった大金を持って、フランスに帰るだろうと思っていた雇い主の姉妹に、フランスには戻らない、お金も全部晩餐会に使ってしまった、と告げる衝撃のラストシーン。
20代の私も30代の私も、そんなことできないと思い、バベットすごい、としか思えなかったのですが、今回はちょっと、彼女の気持ちが理解できたような気がします。
バベットは、自分を受け入れてくれた姉妹に、感謝の気持ちももちろんあったでしょう。でもそれよりも、自分が持っているフレンチの技術を、もう一度自分の手で、きっちりと再現してみたかったのでは、という気がしました。
不思議なもので、お料理をゆっくり食べて味わう時間より、ひたすら料理に向き合い、作
っている時間の方が、かけがえのない時間だったりする気持ち。それが愛する人たちにのためにだったら、もう至福の時間だよなあ。
『バベットの晩餐会』、機会があったら、みなさんもご覧になってみてください。きっと大切な人と一緒に、美味しいフレンチを食べたくなると思います。
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