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école crème et métier blog
執筆者の写真midori kato

オペラキッズとチョコレート

東京でやっていたお菓子教室で、最初の頃からずっと通ってくださっていた方が「娘さん、今、どうしてる?」と聞いてくださることがあります。


もうふたりとも、二十歳をとっくに過ぎたのよ、と言うと、

「えー! 教室に行くと、よく口のまわりにチョコつけてたあの子が?」と驚かれます。


口のまわりをチョコレートだらけにしていたのは、たぶん次女です。

私がパティスリーとお菓子の教室をやっていた頃、次女はまだ保育園生で、日曜日によく店に遊びにきては、お菓子を食べていました。


ものすごく内気で、知らない人とはほとんど話さない子。生徒さんたちが声をかけてくださっても、ほぼ無言で、お返事は?と言っても、もじもじ……。


長女は、口から生まれてきたのか?と思うくらいしゃべる子だったので、姉妹でもこんなに違うのねーと面白く思っていました。


そんな娘ふたりと出かけたときのこと。パティスリーに入って、イートイン席で飲み物とケーキを注文しようと、ショーケースを3人で見にいきました。


「たくさん、あるね、どれにする?」と聞くと、長女は王道のイチゴのショートケーキを迷わず選んだのですが、次女はじっとショーケースのまえで、仁王立ちしていました。


「どれがいい?」と、しゃがんで聞くと、オペラを指さして、私の耳元で「これ、やわらかい?」と聞きました。


「やわらかい?」意味がよくわからず聞き返すと、「うえ、やわらかい?」

どうやら、オペラの一番上のチョコレートの部分が、ガナッシュなのか、パリッとしたチョコレートなのかが、知りたいようでした。



次女がもう少し大きくなってから、その時の質問の補足説明をしてくれたのですが、「オペラの一番上の層になっているチョコレートの部分に、横からフォークを差し込んで、パキッと割るのが好き」なんだそうです。


なるほど。柔らかいガナッシュだと、フォークでパキッとはいかないものね。

それを聞いて、「りんちゃん、カッコいい、アメリみたい!」と私。


映画『アメリ』の主人公が、クレーム・ブリュレのキャラメリゼした部分を、スプーンで割るのが好き、というこだわりのシーンが浮かんで、つい、ほめちゃったのですが、たぶん小学校低学年の娘には、「ふぉん?」って感じだったと思います。


そこからまただいぶたって、フランスに娘と出かけたときに、念願のオペラ座の目のまえの

カフェで、オペラを注文して食べました。


「おいしい?」と聞くと、「まだ食べてないよ」と言いつつ、ピカピカにネイルを施した手

で、オペラの上のチョコレートのど真ん中に、がっつり、フォークを差し込んでいました。


みなさん、おばあちゃんに浴衣を着せてもらって、口のまわりをチョコレートだらけにして、店の片隅でオペラを食べていた保育園児は、大人になって、すまし顔で、カフェ・ド・ラペで、ガトー・オペラを注文したりしています。


だけど、やっぱりあの頃と同じ。フォークで上のチョコをパリっと割るのが好きみたいです。

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