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école crème et métier blog

アンゼリカとシャルトリューズとフルーツケーキ

まだ私が 20 代の頃、ギリシャの海岸で海をながめていたら、遠くの波間から、ぽっこりと小さな坊主頭が現れました。


「え? 誰?」、その坊主頭は、こっちにどんどん近づいてきます。


「え? 誰? 人間? 人間なの?」とその坊主頭をにらんでいたら、なんとそれは、野生のアザラシでした。


「うそでしょ?」アザラシは私の動揺なんておかまいなしに、どんどん砂浜に上がってきて、私のことなど一切気にならない様子で、数メートル先でゴロンと横になって昼寝を始めました。


アザラシが海にいるのは、当然かもしれないけれど、まさか自分の目のまえに現れるとは夢にも思っていなかったので、とてもびっくりした出来事でした。


以前、この植物を見たときも、アザラシに会った日と同じくらい、とても感動して興奮したのを覚えています。



この花、ご存じですか? これは、アンゼリカの花です。


何年かまえ、フランスに行って、お友達のところに泊めてもらっていたときのことです。彼女の家の周りをふたりで、ぶらぶら散歩していたら、ご近所さんが何人かがなにかを運んでいました。


友達がご近所さんの名前を呼んで、私たちは彼らに近づいていきました。「みどりさん、これ、なんの花かわかる?」と、ご近所さんが運んでいるものを友達が指差しました。


「ニンジンの花?」と言うと、「ちがうよ、これはアンゼリカの花だよ」と教えてくれました。確かに、ニンジンの花より強そう。丈がぐんと高く、全体の色が緑で、花もひとつひとつががっしりしています。


「これがアンゼリカ?」

ご近所の農家の方が、咲いているいろんなお花をパリに花材として売りにいくのだそうで、摘んだアンゼリカのバケツをトラックに運んでいるところだったのです。


アザラシと同じくらい遠い存在だった、生のアンゼリカを突然目の前にして、大騒ぎ。

「えー! 私、アンゼリカの砂糖漬け作りたい!」と興奮して叫ぶと、「もう花が咲いてしまうと、茎が固くなるから無理だよ」と、あっさり言われました。


おじさんたちがさっさと、アンゼリカをトラックに積み込んでしまって、自家製アンゼリカの砂糖漬けの夢は一瞬にして消えましたが、それからアンゼリカをちょっと意識するようになりました。


アンゼリカはハーブとして、香草リキュールに入っています。

シャルトリューズという、舌を噛みそうな名前のとても美しいグリーンとイエローの2種類があって、グリーンはミントでアルコール度数はなんと55度、イエローはグリーンよりも度数は多少低く、少し甘みがあります。


薬草リキュールなので、両方ともなかなか個性的な味ですが、メロンのシロップ漬けに、シャルトリューズのグリーンを少し入れると、ほんのちょっとで、メロンの甘さのなかに、

キリッとしたシャルトリューズが効いて、こんな味になるんだ、と驚きます。


Photo/Junichi Harano

そして、若い方はあまり馴染みがないかもしれませんが、緑色の透き通った砂糖漬けで、むかしながらのフルーツケーキには、相棒のドレンチェリーと一緒に入っていることが多く、アンゼリカの鮮やかな緑色は、真っ赤なドレンチェリーと一緒に、焼いても色あせることはなく、ケイクが華やぎますし、しっかりした歯ごたえは、よいアクセントにもなります。


アンゼリカのはいったフルーツケーキ、華やかな見た目なのに、あまり最近は見かけなくなりましたが、ぜひフルーツケーキを作るときに、一度、使ってみていただければと思います。


フルーツケーキ、初めて食べても、どこか懐かしい気持ちになるのは、このアンゼリカのおかげです。

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