école crème et métier blog

サントノーレにはすべてがある

更新日:4月20日


みなさんは、一番好きなお菓子はなんですか?と、聞かれたら、なんと答えますか?  私は、一択でサントノーレ、と答えます。 しかも大きいもの。


まず、土台のタルトの生地を丸くディスク状に焼き、バタークリームの入った濃厚なカスタードクリーム入りの小さいシュークリームを、熱々の飴にくぐらせて、大急ぎでタルトの周りにぐるりとはりつけます。 飴が冷めると、土台のタルトにうまくくっつかなくなるので。


飴でピカピカに光るプチシューで囲まれた真ん中の部分には、プラリネのカスタードクリーム、そしてその上に、たっぷりの生クリームのシャンティを飾って完成です。


大きなサントノーレはあまりみかけないので、みなさんは小さい一人分のサントノーレをイメージなさると思いますが、私の一番好きなフランス菓子は、この大型のサントノーレで す。



私がサントノーレを初めて知ったのは、パリでのお話。大昔に古いホテルの一角にある観光客向けの売店で短期間、アルバイトしていたことがあって、背の高い恰幅のいいフラン ス人の店長さんと、バイトの私だけがいる小さなお店での出来事でした。


ボールペンや絵葉書、小さな香水瓶、バッグやベルトなどの皮製品を並べた、売店と言っ たほうがしっくりくるそのお店に、ちょこちょこと、ホテルの日本から観光にきている宿泊 客がやってきます。


お客さんが並べてある商品をチラチラ眺めていると、唐突に店長が「キレイナネクタイ!」 と、知っている日本語を叫びます。あまりに唐突なので、お客さんも私も一瞬、ビクッとす るのが常で、店長はニコニコと笑顔を振りまいています。「びっくりさせるだけだから、 それ、やめた方がいいですよ……」と、いつか店長に教えてあげようと思っていたのに、教えてあげられないまま、アルバイト期間は終わってしまいました。

ある日、お客さんから「○○のバッグが買いたいんだけど、どこにお店があるの?」と聞かれました。 ブランド品を買うお金も興味もなかった私は、全然わからず困っていると、店長が「お店はサントノーレ通りにあると言って」と助け船を出してくれました。 そしてお客さんが帰ったあと、「お客さんにブランド品のお店の場所を聞かれたら、全部サントノーレ通りにあります、と答えなさい。サントノーレには、すべての高級なお店がそろっているんだよ」と教えてくれました。


すべてがサントノーレにある? 本当かなあ? そう思いつつ、今みたいにインターネット で検索もできず半信半疑だったのですが、とにかく、それがサントノーレという単語を初めて聞いた瞬間でした。お菓子のサントノーレではなく、残念ながらサントノーレ通りのことだったけど。

そして時は流れ、フランスから帰国して何年も経ったある日、私はイルプルーのフランス菓子教室で、サントノーレを作ることになりました。


いつものように、やっとのことで、なんとか大作サントノーレを作り上げ、試食の時間になり、飴でピカピカにコーティングされたプチシューを食べました。そしたら突然、あの「キレイナネクタイ」店長の言葉が蘇ってきたのです。


すべてのものがサントノーレにある。


本当だ。タルト生地のサクサク感、飴のカリカリに包まれたシュー、プラリネのカスター ド、たっぷりのシャンティ、すごいぞ、サントノーレ。別々のパーツが、一体化しようと、 手をつないで、ひとつのお菓子になって押し寄せてくる!


いにしえから作り続けられている銘菓サントノーレによって、パリでブランド品はもちろん、お菓子のことも何も知らなかった過去の自分と、今、代官山のイルプルーで、このお菓子を作る貴重な時間を持てている現在の自分が、長い一本の道を一歩ずつ歩いてきたような気持ちになって、飴でかためたプチシューをバリバリ音を立てて食べながら、これからも頑張ろう、そんな気持ちになったのを、もう20年以上まえのことだけれど、覚えています。


あのとき、私にサントノーレのことを教えてくれた店長、お元気でしょうか。 またいつか、ご縁のあるサントノーレ通りに行って、高級ブティックは結局あまり私には縁がありませんが、アスティエで食器を買って、近くのサロン・ド・テでお茶したいです。


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